ある旅の方
5/9(水)。前日のてやんでい~むらさき~クリームというはしご酒が強烈に残り、一日具合悪し。へべれけになって上着をむらさきに忘れてしまったため、楽屋に出かける前に取りに行くと、早い時間からお客さんがひとり静かに飲んでいた。酒はまったく欲していなかったのでそれほどうらやむことなく、お母さんにお礼を言って楽屋へ向かう。開店してまもなくすると、ひとりのお客さんあり。旅の方らしく、村上で酒を飲むのは初めてとのこと。わたしと新潟で会ったことがあると言われ、おぼろげながら彼と浅川マキの話をしたことなどを思い出し、「お久しぶりですこれはこれはわざわざありがとうございます」となる。あれこれ話をしていくと,先ほどむらさきで飲んでいたと言うから驚いた。お互いに「さっきのあなたでしたか、それはそれは」となる。楽屋が開く18時まで時間があったので散歩をしていたら、たまたまむらさきを見つけて入ったらしい。そこへわたしがのこのこ上着を取りに行ったのだった。いくらせまい村上とは言え、こんな偶然もめずらしい。それよりわたしがすごいと思うのは、彼が村上で初めて飲む酒が、たまたま見つけたむらさきでだったということ。住宅街にたたずむ小さな小さな飲み屋だが、なかなか一見でふらりと入れる雰囲気ではない。なぜ入る気になったかというと、お母さんがのれんをかけるところを見ていて、そのときお母さんが玄関の小さな雑草をむしったからだと言う。その神経のこまやかなところを見て、この店はきっといいと判断したのだった。この飲ん兵衛たる嗅覚はまさに脱帽ものだと思う。決してわたしのように乱れることなく静かに明るく飲む彼の姿は、見ていて実に気持ちよかった。飲ん兵衛はこうありたいと思った。外はまだうすら明るく、浅川マキの「夕凪のとき」が妙に似合っていた。むらさき〜楽屋といううれしいはしごをしてくれた彼は、遅くならないうちの上りで、すっと帰って行った。
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